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動機づけ面接(MI)とは

実例

実際の面接の例


症例は40代、男性会社員である。受診時主訴は対人不安であった。

家族歴:妻、20代の長女、高校生の長男と暮らす

兄:アルコール、肝硬変、静脈瘤破裂にて死亡。

久里浜式アルコールスクリーニングテストを行ったところ,6.2点(アルコール依存症疑い)、ブラックアウトとコントロール不能、離脱症状が見られた。
この結果をフィードバックした。
以下、Cは患者、Tは治療者の発言である。括弧ないにMISC(Motivational Interviewing Skill Code)コーディングによる、治療者行動の大まかな評価を示す。

 

C1 確かに飲みだすとその夜のことを覚えていません。朝酒をすることもあるにはあるけど。でも,先生には食道はまだ普通と言われたから。兄のことを知っているから,あそこまでは飲みませんよ。人前に出るときとか,緊張するときとかだけに飲むだけです。量のコントロールもできます。まあ家では,いろいろあるけど。

T1 自分では止められるが,家のいろいろのせいで飲んでいるということですね。(言い換え)

C2 そう。

T2 とするとあなたはアルコール依存症ではない?(増幅した聞き返し)

C3 不安になるから,仕事,家のこと全部ひっくるめて,飲まないとしょうがないです。

T3 飲まないとやっていけない?(言い換え)

C4 飲むと落ち着くから。

T4 酒がないとやっていけないということですね。(増幅した聞き返し)

C5 自宅では1合だけにしています。

T5 そうですね。そして,この間の同窓会でも?(増幅した聞き返し)

C6 同窓会ではビールだけにしました。濃いのは飲まないようにした。

T6 飲みすぎないように押さえたということですね。それが普段からできているということですね?(増幅した聞き返し)

C7 ‥‥翌日はのみました。

T7 自宅で?(閉ざされた質問)

C8 飲んだら,翌日はどうしても飲んでしまいますね。

T8 飲みたい気持ちが強くなった,ということですね。(感情を聞き返す)

C9 仕事や家のことでいろいろ考えていると,つい。

T9 飲みたくなる?(パラグラフを続ける)

C10 飲んだら,翌日,酒がさめてくると不安になって,飲んでしまう。

T10 飲み会のとき,量を抑えていて,翌日になると飲みたい気持ちが強くなり,家では飲みたいという気持ちに負けてしまう?(感情を聞き返す)

C11 そう。

T11 飲みたくないと思っても飲みたい気持ちの方が勝ってしまうのですね。(感情を聞き返す)

C12 前日に,いろんなことを言ったんじゃないか,迷惑をかけたんじゃないかと自分でいろいろ考えてしまう。そして飲みたくなる。

T12 そして,飲むと落ち込むのですね。(感情を聞き返す)

C13 ええ。

T13 外で飲むと翌日憂うつになって,また飲みたくなる,ということですね。(感情を聞き返す)

C14 はい,でも,会社での誘いは断っている。同窓会だけはと思って飲んでしまった。飲みたいという気持ちに負けた。

T14 飲みたいという気持ちはそれぐらい強いのですね。(感情を聞き返す)

C15 家で一杯だったらいいかな,と。

T15 外で飲むのはいけないが,家なら大丈夫ということ。(両面をもった聞き返し)

C16 はい,家で一合ずつ,飲むつもり

T16 一合以上は良くない,ということですか。(言い換え)

C17 家でなるたけ飲まないようにしようと思う

T17 というと?それは?何か理由でも?(開かれた質問)

C18 体の面もあるし,

T18 他には? (開かれた質問)

C19 毎日別に飲まなくてもいいかな,と思うし

T19 体の面,飲む必要はない,他には?(サマライズ 開かれた質問)

C20 いろいろストレスが溜まると1合くらいと思う。

T20 飲みすぎなければいい?(パラグラフを続ける)

C21 ええ

T21 過ぎなければ飲んでいるほうがいいということですね (両面をもった聞き返し))

C22 理想的には,飲んでいないのが一番いい。

T22 毎日いろいろあり,そのとき,飲みたいという気持ちがあり,理想的にはそういうときにも飲まないほうがいいと思っているのですね。(サマライズ)

C23 ええ,家でのストレスが強くて。

T23 毎日すごい,家でのドラマがあるのですか?(増幅した聞き返し)

C24 ちょこちょこ,とあります。

T24 例えば?(開かれた質問)

C25 母親と娘の口げんかとか,意見の食い違いとか。

T25 激しい喧嘩があるのですね。(増幅した聞き返し)

C26 それほどでもないけど,口げんかと,それに拍車をかけて,息子の部活の世話があって。

T26 奥さんと娘さんの口げんかと息子の部活の世話,他には?(サマライズ 開かれた質問)

C27 毎日ではないか,いろいろ重なると飲みたくなる。

T27 この二つが飲みたくなる原因ですね。他には?(開かれた質問)

C28 金銭的なこともある。

T28 経済的に苦しい?(言い換え)

C29 子どもが高校生だから,負担が大きい。今月は足らないといわれると飲みたくなる。

T29 まとめると,娘,息子など子どものことで飲みたくなるのですね。(サマライズ)

C30 はい。

T30 飲むと子どものこともお金も何とかなる,ということですか。(両面をもった聞き返し)

C31 飲んでもなんにもならんですね。ただ気持ちを落ち着かせるだけ。なんともならん。先が開けんですね。

T31 酒で解決できないとよく分かっていらっしゃる。これから,どうなるといいのですか?(サマライズ 開かれた質問)

C32 第一には娘が仕事したら,なんとか。前よりは,手がかからなくなったけど。

T32 他には?(開かれた質問)

C33 そうですね,そんな感じ。

T33 娘さんが働いてくれたら,ということですね。他にどうなるといい?(聞き返し 開かれた質問)

C34 他にはない。娘が仕事である程度稼いでくれたら。

T34 ということは,あなたは娘さんが稼ぐまでは酒を飲むということですね。(サマライズ 増幅した聞き返し)

C35 そうですね。

T35 お酒は欠かせないという感じですね。(感情を聞き返す)

C36 同僚は三合のむというから。

T36 理想的には飲まないのがいい,一方娘のせいで飲むのを止められないということですね。(サマライズ 増幅した聞き返し)

C37 ...来月になったら,5日ぐらい酒を休んでみようかと思います。先生の話していた対人恐怖の薬を飲んでみたい。緊張が治るんだったら,来月から5日連休になるから,酒を止めて,薬を飲んでなんとかしたいと思う。

 

面接中一貫して,治療者は患者を批判せず,患者の言葉を聞き返し,患者の判断が変わるのを待っている。患者にとっては自分の話したことが整理され曖昧なところをそぎ落とされて,治療者から提示されている。これも一種の直面化である。患者はこの中で言い訳をしたり,他に話をずらしたりしている。治療者はそれを追いかけながらも,サマライズによって話をまとめ,本人が自分の飲酒に対してどう考え,行動するかというテーマから離れないようにしている。それが最終的に,本人の一時的断酒の決断につながっている。こうしたことが,本人への指示や命令によってではなく,本人自身の言葉として引き出されてくるように,治療者が選択的に応答している。これがMIである。

MIはある意味,効率が悪いように見える。本人がのらりくらり言い逃れしていることにも治療者は一言も批判めいたことを言わない。普通の診察場面ならば,本人に厳しく,断酒か飲むか選択を迫るところだろう。兄が飲酒のために早死にし,家族の不和があるなど,本人を責め立てる材料には事欠かない。論理たてて情熱的に攻めることが効果的だと信じている治療者も多いことだろう。しかし,アルコール依存症の治療転帰研究のエビデンスは逆を主張する。MIのスタイルが強制的なスタイルに勝るのである。